フェーズ1 FX機械学習プロジェクトの基盤構築
March 16, 2024
フェーズ1: 準備と基礎構築 - FX機械学習プロジェクトの出発点
FX(外国為替)取引の世界は、常に変動し、予測が困難な市場環境で知られています。しかし、機械学習技術の進歩により、この複雑な市場でも一定の予測可能性が見出されつつあります。私たちのFX機械学習プロジェクトは、この可能性に挑戦し、データ駆動型の取引戦略を開発することを目指しています。
このブログシリーズでは、プロジェクトの各フェーズについて詳しく解説していきます。今回は、プロジェクトの基盤となる「フェーズ1: 準備と基礎構築」について深掘りしていきましょう。
概要図
1.1 データ収集と前処理 - 成功の鍵を握るデータ品質
機械学習プロジェクトの成否は、使用するデータの質に大きく依存します。FX市場のような複雑な環境では、特に高品質なデータが重要です。
1.1.1 信頼性の高いFXデータソースの特定と収集
まず、信頼できるFXデータソースを見つけることから始めます。考慮すべき主なデータソースには以下があります:
- 大手FX取引プラットフォーム(例:MetaTrader、cTrader)
- 金融データプロバイダー(例:Bloomberg、Reuters)
- 中央銀行や政府機関が公開する経済指標データ
これらのソースから、以下のようなデータを収集します:
- 通貨ペアの価格データ(OHLC: Open, High, Low, Close)
- 取引量データ
- 経済指標(GDP、インフレ率、金利など)
- 市場センチメントデータ
データの時間粒度(1分足、1時間足、日足など)や履歴の長さ(過去5年分など)も、プロジェクトの目的に応じて慎重に選択します。
1.1.2 データクリーニングと正規化プロセスの確立
収集したデータは、そのままでは使用できないことが多いです。以下のようなデータクリーニングと正規化のプロセスを確立します:
- 欠損値の補理:線形補間や前方補完などの手法を用いて欠損データを埋めます。
- 外れ値の検出と処理:統計的手法やドメイン知識を用いて異常値を特定し、除去または修正します。
- 重複データの削除:特に複数のソースからデータを収集した場合、重複を注意深く除去します。
- データの正規化:異なるスケールのデータを統一するため、例えばMin-Max正規化やZ-score正規化などを適用します。
1.1.3 効果的な特徴量エンジニアリングパイプラインの構築
生のデータから有用な情報を抽出するため、以下のような特徴量エンジニアリング技術を適用します:
- テクニカル指標の計算:移動平均、RSI、MACD、ボリンジャーバンドなど
- 時系列特徴量の作成:ラグ特徴量、ローリング統計量など
- 経済指標の組み込み:GDP成長率、インフレ率などのマクロ経済指標を適切に統合
- センチメント分析:ニュース記事やソーシャルメディアデータから市場センチメントを抽出
これらの特徴量を効率的に生成し、モデルの入力として使用できる形式に変換するパイプラインを構築します。
1.2 評価指標の定義 - 成功を測る物差し
機械学習モデルの性能を適切に評価するためには、明確で意味のある評価指標が不可欠です。FX取引の文脈では、単純な予測精度だけでなく、実際の取引パフォーマンスを反映する指標が重要です。
1.2.1 プロジェクト目標に基づく主要評価指標(KPI)の選定
以下のような評価指標を検討し、プロジェクトの目標に最も適したものを選択します:
- シャープレシオ:リスク調整後のリターンを測定する指標。高いほど良い。
- 最大ドローダウン:一定期間における最大の資金の落ち込み。小さいほど良い。
- 勝率:利益が出た取引の割合。
- 損益比:平均利益額と平均損失額の比率。
- 総利益:一定期間における累積利益。
これらの指標を組み合わせることで、モデルの総合的なパフォーマンスを評価します。
1.2.2 カスタム評価指標の実装
標準的な指標だけでなく、プロジェクト特有のニーズに応じたカスタム指標も実装します:
- リスク調整後リターン:シャープレシオを拡張し、より複雑なリスク指標を組み込んだ指標。
- 方向性精度:価格の 上昇・下降の予測精度。短期的な価格変動の予測に有用。
- 保有期間リターン:異なる保有期間でのリターンを評価する指標。
- 取引コスト考慮後パフォーマンス:スプレッドやスリッページを考慮した実質的なパフォーマンス。
これらのカスタム指標を実装することで、モデルの実用性をより正確に評価できます。
1.3 基本モデルの開発 - 最初の一歩
複雑なモデルを開発する前に、シンプルな基本モデルを構築することが重要です。これにより、データの特性を理解し、モデリングの基礎を固めることができます。
1.3.1 単一の評価指標に基づく基本モデルの構築
まずは、シャープレシオを最大化することを目的とした基本モデルを構築します。以下のようなステップで進めます:
- データの準備:前処理済みのデータセットを訓練用、検証用、テスト用に分割します。
- 特徴量の選択:初期段階では、少数の重要な特徴量(例:移動平均、RSI、過去のリターン)に絞ります。
- モデルの選択:線形回帰や決定木など、解釈しやすいモデルから始めます。
- モデルのトレーニング:選択したモデルを訓練データでトレーニングします。
- ハイパーパラメータの調整:グリッドサーチやランダムサーチを用いて、モデルのハイパーパラメータを最適化します。
1.3.2 モデルのバックテストと初期評価
構築したモデルの性能を評価するため、以下のようなバックテストを実施します:
- アウトオブサンプルテスト:テストデータセットを用いて、モデルの汎化性能を評価します。
- ウォークフォワード分析:時系列デ ータの特性を考慮し、過去のデータで学習したモデルを未来のデータで逐次的に評価します。
- 取引シミュレーション:モデルの予測に基づいて仮想的な取引を行い、実際の取引環境に近い形で性能を評価します。
これらのテストを通じて、モデルの強みと弱みを特定し、改善点を明確にします。
次のステップ - フェーズ1から2へ
フェーズ1の完了後、以下のアクションを実行し、次のフェーズへの準備を整えます:
- 選定したデータソースから初期データセットの収集を開始します。この際、データの品質と網羅性を重視します。
- プロジェクトチームで議論を重ね、合意を得た主要評価指標(KPI)のリストを確定します。これらの指標は、プロジェクト全体を通じて一貫して使用されます。
- 基本的な特徴量エンジニアリングパイプラインの構築を完了させます。このパイプラインは、今後のモデル開発の基礎となります。
- シャープレシオ最大化を目的とした初期モデルの開発に着手します。このモデルは、今後の比較基準となります。
- 初期モデルのバックテストを実施し、ベースラインとなるパフォーマンスを確立します。これにより、今後の改善の度合いを測ることができます。
これらの作業を通じて、プロジェクトの基盤を固め、次のフェーズへの準備を整えます。フェーズ2では、この基盤の上に立ち、より高度で多様なモデルの開発に取り組んでいきます。
FX市場の予測は決して容易ではありませんが、適切なデータ、評価指標、そして堅実なモデリングアプローチを組み合わせることで、有意義な結果を得られる可能性があ ります。フェーズ1で構築した基盤が、このチャレンジングな旅の成功を支える重要な要素となることを期待しています。
次回は、フェーズ2「多様なモデルの開発」について詳しく解説していきます。お楽しみに!